身近な水紀行
 新座市妙 音 沢
(みょうおんざわ)


21世紀に継承したい身近な自然として、私があげたいのは武蔵野台地のはけ(段丘崖)である。季節の移ろいを敏感に感じ取って四季を奏でる斜面林と、命の息吹を感じさせる湧水。木漏れ日さす頃の魅力捨てがたく、12月4日、小春日和に誘われて妙音沢を訪ねた。妙音沢は、黒目川沿いでは最も水量が豊富であるという。
* 黒目川は、東久留米市の皀莢(さいかち)窪(現小平霊園)と呼ばれる雑木林の中に残された窪地から発し、新座市、朝霞市を通過して新河岸川に注ぐ全長14.48kmの一級河川である。
 事前に情報収集のため新座市教委の斯波(しば) 治さんに電話をすると、市で整備計画があることをうれしそうに話してくれた。更に、車での行き方を教えてくれるので、「歩いて行くんですけど…」。「えっ、ずいぶんありますよ…。」 後日、リーフレツト類を送ってくれた。
 その中の「新座文化財マップ」と「文化財散策ガイド3黒目の里をあるく」をたよりに、東武東上線朝霞台駅から黒目川に沿って歩いていった。その距離、およそ5km。東洋大学を南に見る土堤を歩いてゆくと、土曜日のせいかジョギングやウォーキングをする人たちが結構多い。流域には高層マンションが林立しており、都市河川化した黒目川とはいえ開放感を川に求める人は少なくないとみえる。水は見た目は澄んでいて、黒目川がきれいになったという何人かの言葉を思い出した。川面にはカモの他にカモメが群れ、川が海につながっていることを実感。


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 新座市に入る頃には土堤はなくなり、カモメも姿を消す。コンクリートや綱矢板の護岸が続いて疲れるが、所々の蛇篭による護岸箇所には必ずカモがいて、やや元気を取り戻す。国道254号の喧噪を過ぎてしばらく行くと、右岸側に段丘崖が迫ってきて斜面林が迎えてくれる。関東地方における旧石器研究の黎明、市場坂遺跡を仰ぎながら立派な橋を過ぎると、黒目川は大きく折れ、川にどっと水が流れ落ちている場所がある。そこが妙音沢であった。

 湧水は、小尾根を挟んで大きく2箇所に分かれており、下流側は川に落ちる前が池になっている。近づくといきなり数羽のカモが、水音をあげて飛び立った。上流側はより谷が深く、崖下の数箇所からの湧水が一つの流れとなり、水草や落葉をさらっている。思わず、「ほ−」と嘆声が出るほど水量は豊富である。リーフレツトを見ると、「その昔、天から降りてきた弁財天が、村人に琵琶の秘曲を授けた」「弁財天の奏でる調べは片山の里に響きわたった」との伝説が記されている。むべなるかな。
 帰途、黒目川下流沿いにある朝霞市立博物館に立ち寄った。水車を利用した伸鋼業や、新河岸川の舟運が目玉の博物館である。学芸員の野沢均さんが、「館の敷地にも湧水があるんです」と、うれしそうに言って案内してくれた。水量は少ないが沢ガニもいるという。展示フロアの4面マルチビデオコーナーには、黒目川・越戸(こえど)川沿いの湧水をテーマにしたものがある。私もうれしくなった。

  (副館長兼学芸部長 柿沼幹夫)

 

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